8日、政党内の混乱で延びに延びた第18回党大会がようやく開かれ、10年間続いた激動の胡温体制が終わります。胡錦濤と温家宝は鄧小平が道を拓いた改革開放路線の急拡大と、そのための江沢民色払拭に心血を注いだ、中共の歴史に間違いなく名を残す政治家でした。全ての負の遺産を江沢民に押し付けることで新しい「中国」を印象づける手口は、胡温以前の中共同様に欺瞞と謀略に満ちたものでしたが、たとえそれを割り引いても、中国を世界第二位の経済大国にまで押し上げた功績は少しも色褪せることはないでしょう。
人民日報はこの10年を「邁進の10年、輝きの10年」と称えました。温故以前の10年間、更にはそれ以前の10年間の中国を思い出せば、間違いなく「邁進の10年、輝きの10年」と言ってよいでしょう。もちろん微博(中国版Twitter)上には「喪失の10年」「災難の10年」などと揶揄する声(その多くは20年前、30年前の中国を知らない若者の声)もありますし、インターネットの情報統制や「政府系ステマ」の存在は未だに世界水準でみれば自由とはかけ離れた姿ですが、それでも間違いなくこの10年で中国は自由へと向かっています。
さて、もうすぐ習近平主席(多分)と李克強首相(多分)の習李体制(多分)が始まるわけですが、その後の中国はどこへ向かうのでしょうか?「胡錦濤が習近平に変わっても中共は変わらない」という専門家が多いですし、それも一理あります。習近平という政治家。彼は太子党の人間で江沢民の息のかかった上海閥なので、また江沢民時代に逆戻りするのではないかという懸念の声も聞かれますが、恐らく次体制では単なるお飾り、鏡餅のミカンの様な主席になるでしょう。実質的に李克強がトップであると考えた方がよいかもしれません。でも、「何も変わらない」というのは非常に危険な淡い期待、希望的観測と思えてなりません。
「何も変わらない」と考えるのがなぜ危険なのでしょうか?それは、李克強という政治家が、そして恐らく要職につくであろう胡温派の指導者たちがこれから中国をどう方向づけるか如何で、中国という国が経済的にも政治的にも混乱する可能性があるということです。もちろんその余波は、日本にも韓国にも台湾にも真っ先に及ぶことになるでしょう。
まず、人民元を国際決済通貨として世界で通用させるため、李克強はおおかたの予想よりもかなり早いタイミングで(それも、ひょっとしたらみんながビックリするくらい早いタイミングで)人民元を完全変動相場制に移行する決断を下すはずです。これと付随して、人民元取引における様々な制限は撤廃され、また上海市場を世界の投資家に開放することになるでしょう。その結果、日本円と日本国債の需要は相対的に低下し、円は円安に、長期金利も上昇に向かいます。もし日本国内の銀行が今の脆弱な収益構造を早急に改善しなければ、国債の下落で大なり小なり含み損を抱え、長く苦しい時代に突入するかもしれません。日本株にとっては、必ずしも悪い話ではないと思いますが。
また、李克強は一部で実験的な「民主化」を行なう可能性もあります。もちろん中央統制下での見せかけの民主化に過ぎないとは思いますが、それが火種となって大きな民主化の流れに道筋をつけ、最悪の場合、中国は内戦状態となる可能性すらあります。天安門事件の時を思い出すと、人民解放軍は民主化勢力ではなく中共保守派に付きました。しかし天安門の頃の民主化が「大きくなりすぎた学生運動」だったのとは異なり、次の民主化運動では、兵士たちは「自分の親兄弟を殺すか中共を倒すか」の決断を迫られることになるでしょう。
しかも既に時代は変わっており、インターネット網の普及により人民解放軍の兵士たちも多くを知りすぎています。一人っ子政策下で小皇帝として大切に育てられた青年兵士たちは、迷わず中共の打倒を選ぶでしょう。中共としてはそれだけは避けなければいけません。最終的に李克強は中共による一党独裁温存の範囲内で最大限の民主化の道を模索せざるをえず、中共の権力基盤が大きく揺らぐことになるはずです。その結果、人民元は暴落し、中国のインフレ率は成長率を大きく上回り、日本円はしばらく激しく上下した後で再び円高へと向かうでしょう。
恐らく8日以降、日中関係も徐々に修復に向かうでしょう。また、景気対策も矢継ぎ早に打ち出されると思います。それが2009年と同様の工業偏重になるか、あるいは内需刺激策が主体となるのか。いずれにせよ低迷する日本の企業にとって悪い話ではありません。しかし、日本で個別銘柄の物色を考える場合、中国がどの様な景気対策を採用するか、更にどの様な割合で分配するのかによって選ぶ銘柄は大きく変わってきます。更にアメリカの大統領選という国際情勢を左右するもう一つの大きなファクターがあるため、目測を誤れば大損をする可能性もあります。でも才覚に自信のある方は、ここで一勝負してみるのも悪くないのではないでしょうか。