2013年3月6日水曜日

長期投資家はいつ利益を確定するのか?

たまには長期投資の話をしましょうか。

長期投資家は売るのが苦手とよくいわれます。バフェットですらしばしば「売るタイミングが下手だ」と評されます。もちろんそんなこという人達は「じゃあバフェットより儲けてみれば?」とみんなに言われちゃうわけですが・・・

どんな投資法でも「利益確定」が一番難しいといわれますが、「持ち続ける」ことが前提の長期投資の利益確定は特に難しいのです。そもそも「持ち続ける」ことと「利益確定」は二律背反の関係にあるので。私自身、長期投資を勉強する中で「これって・・・どうやったらコンスタントに利益を確定できるんだろう・・・???」と、かなり悩んだのも事実です。

バフェット翁などは「持ったら放っておけ」と平気で言ってのけます。いわゆる buy and hold forever と呼ばれる手法です。確かにこれは長期投資をする者は誰もが紙に書いて 壁に貼るべき言葉です。なぜなら、「絶対売るな!Never sellだ!!」と常に自分に言い聞かせなければ、人間の如き弱い生き物は目先の値動きに惑わされて利益や損失を確定してしまいます。だから長期投資家は、まず「買った株は一生売らない」と心に固く誓うべきです。そして一生売らないつもりということは、買う前はよほど慎重に精査 しなければなりません。

でもそんなことを言われると、次はこんな叫びにも似た疑問が湧いてきます。「 じゃあ株を買ってせっかく値上がりしてもインカムゲインしか手にできないってこと!?」それはちょっと淋しすぎます。長期投資家は一生キャピタルゲイン を手にできないのでしょうか?

この疑問が解消したのはジョン・テンプルトンのことを勉強した時です。テンプルトンは私が持った様々な疑問に対して、実に明快に答えてくれました。長期投資家が利益や損失の確定を考えるのはどういうときか?
テンプルトンは例えばこんなときと言ってます。
・手持ちの銘柄よりも50%以上儲けの期待できる銘柄が発生したとき
もちろん値上がり前に50%以上余計に上がるかどうかなんてわかりませんが、それくらい圧倒的に「お買い得」な銘柄が見つからない限りは売るなという戒めです。他にはこんなことも。
・購入時に想定できないような問題が発生したとき
バフェット翁曰く「政府の方針で利益が大きく左右される銘柄は選ばない」のが長期投資の鉄則です。それでも、想定し得ない法改正が起こったりすることは過去に幾度と無くありました。また翁は「50年後が容易に想像できる企業を買う」というのも長期投資の鉄則と言ってます。50年後の人々について、Windowsを使ってるかMacを使っているか想像するのは無理ですが、コーラを飲みながらケチャップを塗ったホットドックを食べる姿なら容易に想像出来ます。でも「50年後も綿の服を着ているはずだ」と50年前に綿紡績会社を買った人は、その後の技術革新や産業構造変化の荒波に揉まれて損失を出すことになったでしょう。社会がどう変化するかなんて専門家でも見誤るのが普通です。あるいは企業の乗っ取りなどで経営陣が変わってしまうなど、経営上の問題も起こりえます。こうした様々な問題に直面した場合、他人よりも早く問題意識を持って対処するというのもひとつの方法です。

しかし、テンプルトンも言っている通り、投資の最大の鉄則、黄金則は「他人と同じことをしていたら他人と同じ利益しかあげられない」という一言に集約されます。他人が買うときに買ったら足元を見られます。他人が売るときに売ったら買い叩かれます。だからもし利益確定しようと思ったら、どんな天井知らずの相場でも他人より早く売り抜けるか、どんな底なしの相場でも石のごとく動かないかの二種類しかありえません。「みんなが売って暴落しているから自分も売る」という考え方は絶対に存在しないのです。たとえ売るのが早すぎて利益の機会を逃したとしても他人よりも圧倒的に早く売るか、他人がどんなに投げ売りしていても絶対に手放さずむしろ買い増す様でなくては人並み以上のパフォーマンスは得られません。もちろん言うは易しで、なかなかそうはできないから、日々精神力を鍛えて鉄の意志を身につけようと精進するわけですが・・・

それでも四半期ごとの企業業績を見るにつけ、この企業は期待はずれだったかもしれない、暴落してしまったけど損失を確定してしまいたいという感情に襲われることはあります。そんな時は、まず冷静にならなければいけません。冷静さを失った状態で判断したら大抵の場合は大失敗します。

でもありがたいことに、冷静になるための手順もテンプルトンは示してくれています。
「もし自分がその株を一株も持っていなかったとして、今の企業業績、今の株価なら買いたいですか?」
まず、自分自身にこう問いかけてみてください。もしそれで買いたいと思うならば、その持ち株は絶対に売るべきではありません。到底買いたいとは思わないならば、その銘柄は既に価値を失ってしまった可能性があります。損失分は諦めて、より効率のいい銘柄に切り替えるというのもひとつの選択かもしれません。

テンプルトンについてもっと知りたい方は・・・なかなかいい和書がありませんが、ウィザードブックシリーズの「テンプルトン卿の流儀」なんかはわりとよくまとまってて、読みやすいのでオススメです。