2013年4月30日火曜日

iPS研究者のみなさんも気にしてる?!日本版NIHがバイオ業界に及ぼす影響

先日、iPS研究の公開シンポジウムに行ってきました。政府肝いりのプロジェクトだけあって、私の専門分野とは比較にならないスゴイ賑わい、しかも報道のカメラや記者さんまで聴きにきてて、立ち見御免の大人気シンポジウムでした。

そんな中私はというと、実はあんまり興味がなかったのですが、ちょうど有給とって遊びに行く途中の駅近くが会場だったので、知り合いにお願いして申し込みしてもらいました。投資のネタを探しに…結果からいうと、ひとつも投資のネタになりそうな話はありませんでしたが…(笑)

でもそんな中で、研究者さんたちがすごく気にしていた話題があります。それが「日本版NIH」の話。

NIHってなんですか???実は私もそんなに詳しくはないんですが、NIHっていうのは「アメリカ国立衛生研究所」の略称で、アメリカ国内はもちろん世界中から優秀な若手研究者が大勢集まって最新のバイオ研究を行っている研究機関のことです。もちろん企業からもたくさんの研究費が集まってて、研究成果は特許化されたり、毎年NatureやScienceといった有名な雑誌に多数の論文を出している、バイオ研究のメッカなんです…といった感じのことを、NIHで若い頃に博士研究員をやってたことのある知り合いが言ってました。(ホント、業界のことに疎くてすいません…(笑))

じゃあどうして今、安倍さんは「日本版NIH」を作ろうとしてるのでしょうか?いろんなひとと話をしてて見えてきたのは、どうやら「日本版NIH」はTPPと切っても切れない関係にあるということです。

TPPで一番影響を受けることのひとつに医療制度があります。国民皆保険と混合診療の話ばかりが取りざたされてますが、実はそんなことよりも深刻な問題があります。それは、日本の創薬はアメリカと比較して圧倒的に競争力が低いこと。今は厚労省の認可制度に守られているのでどうにかなっていますが、TPPに参加することになればそういった防壁は取り払われ、競争力の強い(つまり安い)医薬品が一気になだれ込んできます。

じゃあなぜ日本の創薬は弱いのか?逆にどうしてアメリカの創薬は強いのか?実はここにNIHの存在が深く関係している様です。日本では、各々の製薬会社が競争してバラバラに新薬開発を行ってます。でもアメリカの場合、新薬開発でNIHの果たす役割が大きく、各企業が出す研究費ごとにある程度住み分けをしながら、しかも国からの研究費助成も受けながら効率的に資金を活用して研究を進めているとのことです。こと創薬に関してはアメリカが自由競争の国だなんて真っ赤な嘘ですね。

だからNIHは、ファイザーやメルクといったアメリカのメガファーマにとって、低リスク低コストで新薬開発を行える「釣堀」の様な存在になっています。こうやって高い競争力を手にすることで資金を温存できるからこそ、M&Aを繰り返して巨大化する体力もあったわけです。

ということは、TPPに参加するならば、日本版NIHの成否は製薬会社にとって死活問題になります。もし形式的なもの、厚労官僚の単なる天下り先みたいなものになってしまったら。そうなればビッグスリーは軒並み吸収され、事実上ファイザーやメルクの日本法人になってしまうかもしれません。

逆に日本版NIHが大成功したら?ビッグスリーは大きな競争力を手にすることになりますが、その場合は、もしかしたらバイオベンチャーの存在意義が今よりも小さくなるのではないでしょうか。当面は研究者も資金もベンチャーには集まりづらくなるでしょう。赤字体質のバイオベンチャーはたちまち資金がショートし、蒸発してしまうかもしれません。