2012年10月31日水曜日

Pさんの雌鶏

ある晴れた朝、Pさんは市場に出かけたとき、美味しそうな鶏を見つけました。
「ご主人、この鶏はいくらだい?」
「これは雌鶏だから肉代が5ドル、卵代が銀貨10ドル、合わせて15ドルでいいよ。」
Pさんは15ドルを払って、鶏を抱えてホクホク顏で家に帰りました。
「ハニー、雌鶏を買ってきたぞ。これから卵がいっぱい食べられる。」
Pさんがそういうと、P夫人は呆れた顔で言いました。
「ダーリン、それは雌鶏じゃなくて雄鶏よ。卵は産まないわ。」
そうです、Pさんは5ドルの雄鶏を15ドルで売りつけられていたのです。気づいても後の祭り、市場に店はなく、主人は逃げおおせてました。
「どうするのダーリン?」
P夫人はからかい半分でそう聞きます。


するとPさん、
「大丈夫、私にいい考えがある。」
と言って金物屋へ。
「金物屋、この雄鶏を15ドルで買ってくれ。」
「ご冗談を。気は確かですかい?ここは金物屋ですぜ旦那?だいたいその雄鶏はどう見ても5ドルの価値しか…」
「その代わり、この5ドルの鳥カゴ、随分立派じゃないか。どう見ても15ドルの価値はある。私ならこの鳥カゴを使って10ドルは儲けられるぞ。どうだい、私が雄鶏とセットで20ドルで買おうじゃないか。」
金物屋の主人がキョトンとしている間に、Pさんは5ドルを置いて鳥カゴを買って帰りました。
「どうだいハニー、5ドルの雄鶏を15ドルで売って、鳥カゴ付きで20ドルで取り返してきたぞ。私の見たてでは、この鳥カゴ、15ドルの価値はある。これで損した分はチャラだ。」

こういうのを「飛ばし」といい、5ドルの鳥カゴに払った(?)余分な10ドルを「のれん代」といいます・・・って、ちょっと違うか(笑)
損失を損失として計上してしまうと企業価値が損なわれ、当然株主に怒られます。最悪の場合、債務超過に陥ってしまうこともあるでしょう。でも、Pさんの様に、たいした価値も無い鳥カゴに損失を付け替えて全部まとめて買い取れば、あら不思議、「のれん代」という無形固定資産として損失の計上を一時的に免れます。
…とはいえ、一時的に免れただけ。「のれん代」はいずれ償却していかなければなりませんし、それが無理なら減損処理しなければいけなくなります。できれば黒字の時期にこっそり償却していきたいのですが、赤字が続けばそうも言ってられません。いずれにせよ、企業価値はもうとっくの昔に損なわれいるのです。Pさんの件だったら、P夫人はとっくにお見通しなんですが…