2012年9月10日月曜日

大学発ベンチャーに投資する際の心構え

今はこの通りちゃらんぽらんに生きている私イーユンですが、こんな私も実はその昔、某大学のバイオ系研究機関で産学連携らしきものに参加したこともありましたし、特許案件の何件かに名前を入れさせてもらってたこともありました。その関係で…
「イーユンは大学発バイオベンチャーには興味ないの?」
…と、もう何十回もいろんなひとに聞かれてきました。その心は、投資しないのかという意味のこともあったし、参加しないのかという意味のこともあったし、起業しないのかという意味のこともありました。その都度、曖昧な笑みを浮かべてお茶を濁してきたわけですが…

企業の研究と大学の研究は根本的に違うものと考えた方がよいでしょう。

企業の研究費は利益を生み出すための原資でなければなりませんので、本来その研究成果が製品開発に結びつき需要を創出することが前提で研究が進められます。もちろん、実際にはそう簡単ではなく、特に大企業ではしばしば落とし所のない研究に資金とマンパワーが投入されることになりますが…それでも、企業の研究は大学の研究とは全く異なります。



大学の研究においては、悪く言えば「次の研究費」を生み出すことが最大の目的となります。この「次の研究費」というのが実に曲者です。企業ならば当然「利益を生む期待値」によって次の研究費は生み出されるはずです。だから期待値が高まれば研究費は増額され、期待値が低くなれば研究費は減らされます。でも大学では、独創性とか、政治力とか、権威などといった利益とはおよそ無縁のファクターによって次の研究費が生み出されるのです。

だから、大学の研究はしばしば克服がほぼ不可能な問題を抱えながら進められますが、それは些細なこととみなされます。例えば何か素晴らしいがん診断技術を研究していたとします。たとえ診断に使用する薬剤の毒性が高く、自分たちはこれを絶対に克服できないと知っていたとしても構いません。そういった問題はいつか研究してくれるかもしれないどこかの誰かに委ね、自分たちは独創的な研究成果を誇らしく語りさえすれば次の研究費につながるのです。こういうと「けしからん輩だ!」と怒る向きもあるかもしれませんが、基礎研究とはそういうもので、科学技術の発展には欠かせないものでもあります。

しかし、企業がこれをやったらどうでしょう?克服不可能な問題点を棚に上げて、「自分たちの研究はこれだけの成果を上げ、これだけの将来性があり、これだけの患者を助けることができる」と明日にも実用化される様な口ぶりで株主に語ったとしたら。それはもはや詐欺でしかありません。しかも「大学発」という権威がこれを語るとしたら。一般の人は「さすが天下の○○大学!」と膝を叩いて「自分も一口乗りたい」と騙されるでしょう。

全ての大学発ベンチャーが詐欺まがいだとは思いません。非常に誠実な大学発ベンチャー企業もありますし、きっとその中から将来大きな利益をもたらす企業も出てくるでしょう。だから私自身、上場しているしていないにかかわらず大学発ベンチャーもちゃんとチェックしていますし、なるべく学術論文も読むようにして新しい動きについていくよう心がけています。しかし一般の方がトップマネジメントの言葉から将来性を見込んで大学発ベンチャーに投資する際は、詐欺師の中から正直者を見つけ出すよりも難しいものと心得るべきでしょう。それが私の実感です。